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サッカーのヘディングがもたらす脳損傷のリスクとは

7月8日
読了時間: 12分

アマチュア選手・保護者・指導者が知っておくべきリスクと対策

サッカーにおいて、ヘディングは試合の流れを変える重要なプレーです。ゴール前の競り合い、クリア、セットプレー、パスのつなぎなど、ヘディングが勝敗を左右する場面は少なくありません。

一方で近年、世界中の研究で注目されているのが、繰り返される頭部への衝撃が脳に与える影響です。

「脳震盪を起こしていないから大丈夫」「意識を失っていないから問題ない」「プロ選手ではないから関係ない」

そう考えてしまいがちですが、最新の研究では、アマチュア選手であっても、繰り返しのヘディングによって脳に一時的な変化や微細なダメージが生じる可能性が報告されています。2026年にJAMA Neurologyで公開された研究では、302人のアマチュアサッカー選手を対象に、試合前後の血液バイオマーカーを調べたところ、ヘディングをした選手では神経損傷に関連するS100Bやp-tau217の上昇が確認されました。

この記事では、脳神経外科の視点から、サッカーのヘディングによる脳への影響、アマチュア選手が注意すべきリスク、そして安全にプレーを続けるための具体的な対策をわかりやすく解説します。


ヘディングで問題になるのは「脳震盪」だけではない

サッカーの頭部外傷というと、多くの方がまず思い浮かべるのは脳震盪です。

脳震盪は、頭部への強い衝撃によって一時的に脳の働きが乱れる状態です。頭痛、めまい、吐き気、ぼーっとする、集中できない、視界がぼやける、光や音に敏感になるなどの症状が出ることがあります。脳震盪では意識を失うとは限らず、実際には意識消失を伴わないケースも多くあります。

しかし、ヘディングで注目されているのは、明らかな脳震盪だけではありません。

最近重要視されているのが、サブコンカッシブ・インパクトです。

これは、脳震盪と診断されるほどではないものの、頭部に繰り返し加わる小さな衝撃のことです。1回1回の衝撃は軽くても、長期間にわたって積み重なることで、脳の微細構造や認知機能に影響する可能性が指摘されています。

つまり問題は、「一発の大きな衝撃」だけでなく、「小さな衝撃の積み重ね」にもあるということです。


最新研究でわかってきたヘディングと脳への影響

1. アマチュア選手でも血液バイオマーカーが上昇する可能性

2026年にJAMA Neurologyで公開された研究では、アマチュアサッカー選手302人を対象に、試合中のヘディング回数や強度をビデオ解析し、試合前後の血液バイオマーカーを測定しました。

その結果、ヘディングをした選手では、ヘディングをしていない選手と比べて、試合直後にS100Bの上昇が確認されました。また、ヘディング回数が多いほどS100Bやp-tau217の上昇が大きくなる、いわゆる用量反応関係も示されました。高強度のヘディングでは、p-tau217とS100Bの上昇がより明確に認められています。

この研究で重要なのは、対象がプロ選手ではなく、アマチュア選手だったという点です。

もちろん、この結果だけで「ヘディングをすると必ず将来認知症になる」とは言えません。実際、バイオマーカーの上昇は24〜48時間以内に正常化したと報告されています。

しかし、ヘディングが一時的であっても神経の状態に影響を与える可能性が示されたことは、アマチュアサッカーにおいても見逃せないポイントです。

2. 脳の前方、特に眼窩前頭部付近が影響を受けやすい可能性

2025年にJAMA Network Openで公開された研究では、352人の成人アマチュアサッカー選手を対象に、過去12か月の反復性頭部衝撃とMRI画像、認知機能との関連が調べられました。

この研究では、ヘディングなどの反復性頭部衝撃が多い選手ほど、脳の前方にある眼窩前頭部の灰白質・白質境界に微細構造の変化がみられ、その変化が言語学習成績の低下と関連していたと報告されています。

コロンビア大学の報告でも、頻回にヘディングを行う選手では、脳の外側に近い白質と灰白質の境界部分、とくに額の奥にあたる領域が影響を受けやすい可能性が示されています。

脳の白質と灰白質は性質が異なり、衝撃を受けたときの動き方にも違いがあります。そのため、境界部分にはずれの力、つまり剪断力がかかりやすいと考えられています。

3. 元プロ選手では神経変性疾患リスク上昇の報告もある

ヘディングの長期的な影響については、まだ研究が続いている段階です。ただし、元プロサッカー選手を対象にした大規模研究では、一般集団と比べて神経変性疾患による死亡や認知症関連薬の処方が多かったことが報告されています。

また、2021年のJAMA Neurologyの研究では、元プロサッカー選手の中でも、ゴールキーパーよりフィールドプレーヤー、さらに競技歴が長い選手で神経変性疾患リスクが高い傾向が示されました。

ただし、ここで大切なのは、プロ選手のデータをそのまま子どもやアマチュア選手に当てはめすぎないことです。プロ選手は競技年数、ヘディング回数、衝撃の強度、試合頻度が大きく異なります。

現時点で言えることは、「過度に怖がる必要はないが、頭部への衝撃を減らす意識は必要」ということです。


アマチュア選手が知っておくべき3つのリスク

リスク1:自覚症状がなくても脳に負担がかかる可能性


ヘディング後に頭痛やめまいがなければ、多くの選手は「問題ない」と考えます。

しかし、血液バイオマーカーやMRIを用いた研究では、自覚症状が乏しい場合でも、脳の微細な変化が起きている可能性が示されています。

もちろん、すべてのヘディングが危険というわけではありません。問題は、回数、強度、年齢、体格、首の筋力、既往歴、疲労状態などが重なったときに、脳への負担が増える可能性があるという点です。


リスク2:記憶力・集中力・学習能力への影響

ヘディングによる反復性頭部衝撃は、言語学習や記憶機能との関連が報告されています。2025年のJAMA Network Open研究では、眼窩前頭部の灰白質・白質境界の変化が、言語学習課題の成績低下と関連していました。

これは、1回ヘディングをしただけで急に記憶力が落ちるという意味ではありません。

しかし、日常的にヘディング練習を多く行う選手、ポジション上ヘディング機会が多い選手、成長期の選手では、長期的な視点で頭部衝撃の管理が重要になります。


リスク3:子ども・若年選手ではより慎重な対応が必要

子どもや若年層では、脳が発達段階にあります。そのため、頭部への衝撃については大人以上に慎重な管理が必要です。

アメリカでは、11歳以下の選手には練習・試合でのヘディングを行わせない方針が示され、12〜13歳ではヘディング練習を週30分以内、週15〜20回以内に制限する基準が設けられています。

イングランドでも、成人アマチュアを含め、練習でのヘディングは1セッション10回まで、週1回までに制限することが推奨されています。

日本でも、チームや指導者、保護者が「根性論」ではなく、科学的なリスク管理の視点を持つことが重要です。


ヘディングを安全に行うための具体的な対策


1. ヘディング練習は「量」より「質」を重視する

昔ながらの練習では、何十本も連続してヘディングを行うことがありました。

しかし現在は、回数をこなす練習よりも、正しいフォーム、タイミング、体の使い方を学ぶことが大切です。

特に避けたいのは、以下のような練習です。

  • 長い距離から強く蹴ったボールを何度もヘディングする

  • 疲労している状態で反復練習を続ける

  • 首や体幹が弱い選手に強いボールを当てる

  • 雨で重くなったボールを使い続ける

  • 競り合いを想定した強度の高い練習を何度も行う

イングランドFAのガイダンスでも、長距離のボールやクロス、コーナーキックからのヘディングは頭部への負荷が高くなりやすいとされ、練習設計に注意するよう示されています。


2. 練習中のヘディング回数を管理する

ヘディングはゼロにしなければならない、という話ではありません。

ただし、練習中のヘディング回数をチームとして管理することは重要です。

目安としては、イングランドFAの成人アマチュア向けガイダンスにあるように、ヘディング練習は1セッション10回まで、週1回までという考え方は、日本のアマチュアチームでも参考になります。

特に、以下の選手は回数を少なめに調整した方がよいでしょう。

  • 成長期の子ども

  • 頭痛持ちの選手

  • 過去に脳震盪を起こした選手

  • 首の筋力が弱い選手

  • 女性選手

  • 疲労が強い選手

  • 試合や練習が連続している選手


3. 正しいヘディング技術を身につける

安全なヘディングには、技術が必要です。

重要なのは、頭だけでボールを受けるのではなく、体幹、首、膝、ジャンプ動作を連動させて、衝撃を分散することです。

意識したいポイントは以下です。

  • ボールを最後まで見る

  • 額の正面でボールを捉える

  • 首を固定しすぎず、体全体で力を伝える

  • 受け身のヘディングではなく、自分からタイミングを合わせる

  • 空中で相手と接触する危険な競り合いを避ける

  • 疲れてフォームが崩れたら練習を止める

ヘディングは「気合い」ではなく、技術です。正しい技術を短時間で学び、無駄な反復を減らすことが脳への負担を減らします。


4. 脳震盪が疑われたら、その日は絶対に戻らない

もっとも大切なのは、脳震盪が疑われる場面で無理をしないことです。

以下の症状がある場合は、脳震盪を疑います。

  • 頭痛

  • めまい

  • 吐き気・嘔吐

  • ぼーっとする

  • 集中できない

  • 視界がぼやける

  • ふらつき

  • 光や音がつらい

  • 眠気が強い

  • 頭が重い感じ

  • いつもと様子が違う

イングランドFAの脳震盪ガイドラインでは、脳震盪が疑われる選手は直ちにプレーや練習から外し、その日は復帰させないことが明記されています。

「少し休めば大丈夫」「大事な試合だから戻りたい」「本人がやれると言っている」

この判断が最も危険です。

脳震盪では、本人が自分の状態を正確に判断できないことがあります。指導者、チームメイト、保護者が止める勇気を持つことが必要です。




すぐに医療機関を受診すべき危険サイン

頭部を打った後に、以下の症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。

  • 頭痛がどんどん強くなる

  • 嘔吐を繰り返す

  • 意識がぼんやりする

  • 会話がかみ合わない

  • けいれんがある

  • 手足のしびれや力の入りにくさがある

  • 物が二重に見える

  • 首の強い痛みがある

  • いつもと性格や行動が違う

  • 眠気が強く起こしにくい

FAのガイドラインでも、意識状態の悪化、強い頭痛、繰り返す嘔吐、けいれん、手足のしびれや脱力、複視などは緊急評価が必要なサインとして示されています。


保護者・指導者ができる安全対策

子どもやアマチュア選手を守るためには、本人任せにしないことが重要です。

指導者や保護者は、次のような対策を取り入れてください。

  • ヘディング練習の回数を記録する

  • 小学生年代では無理にヘディングを教えない

  • 強いボールでの反復練習を避ける

  • 雨で重くなったボールを使わない

  • 頭痛やめまいを訴えた選手を休ませる

  • 脳震盪が疑われたら当日復帰させない

  • 復帰は段階的に行う

  • 頭を打った後の症状を家庭でも観察する

  • 勝利よりも将来の脳の健康を優先する

スポーツは子どもの成長にとって大切です。だからこそ、長く安全に続けられる環境づくりが必要です。


ヘディングは全面禁止すべきなのか?

現時点で、すべての年代・すべての選手に対してヘディングを全面禁止すべきとまでは言えません。

ヘディングはサッカーの重要な技術であり、適切に管理すれば競技の中で必要なプレーでもあります。

しかし、これまでの研究から考えると、少なくとも以下のような考え方は重要です。

必要のないヘディングは減らす。練習では回数を管理する。子どもには慎重に導入する。症状があれば絶対に無理をしない。

つまり、ヘディングを「する・しない」の二択ではなく、脳への総負荷を減らしながら、安全に技術を身につけるという考え方が大切です。


脳神経外科医からの提言

サッカーは素晴らしいスポーツです。

走る、判断する、仲間と連携する、相手と競り合う。身体能力だけでなく、集中力、判断力、チームワークも育ててくれます。

だからこそ、頭部への衝撃についても正しく理解する必要があります。

ヘディングによる脳への影響は、まだ研究が進んでいる分野です。すべてが完全に解明されたわけではありません。しかし、アマチュア選手でも血液バイオマーカーの変化が確認され、成人アマチュア選手でも脳の微細構造や認知機能との関連が報告されている以上、「気にしすぎ」と片付けるべきではありません。

大切なのは、サッカーをやめることではありません。

安全に続けるために、頭部への衝撃を管理することです。

特に、成長期の子ども、頭痛やめまいを訴える選手、過去に脳震盪を起こした選手は、早めに脳神経外科へ相談することをおすすめします。

まとめ

サッカーのヘディングは、競技上重要な技術である一方、繰り返しの頭部衝撃が脳に与える影響について研究が進んでいます。

最新研究では、アマチュア選手でもヘディング後に神経損傷に関連する血液バイオマーカーが一時的に上昇すること、反復性頭部衝撃が脳の微細構造や言語学習機能と関連する可能性が報告されています。

ヘディングを過度に怖がる必要はありません。しかし、軽く考えすぎるのも危険です。

練習回数を管理し、正しい技術を身につけ、症状があるときは無理をしない。この基本を守ることが、選手の将来の脳を守る第一歩です。

サッカーを長く、安全に楽しむために。今こそ、ヘディングと脳の健康について、選手・保護者・指導者が一緒に考える時代です。





Q. サッカーのヘディングは脳に悪いですか?

ヘディングがすべて危険というわけではありません。ただし、繰り返しのヘディングは脳への小さな衝撃となり、血液バイオマーカーやMRI画像上の変化と関連する可能性が報告されています。大切なのは、練習回数を管理し、症状があるときは無理をしないことです。


Q. 脳震盪がなくてもヘディングは脳に影響しますか?

影響する可能性があります。脳震盪と診断されない程度の小さな頭部衝撃をサブコンカッシブ・インパクトと呼びます。近年、この小さな衝撃の積み重ねが脳の微細構造や認知機能に関係する可能性が研究されています。


Q. 子どもにヘディング練習をさせてもよいですか?

成長期の子どもでは慎重な対応が必要です。海外では、年少選手のヘディングを禁止または制限するガイドラインがあります。小学生年代では無理にヘディングを教えず、まずは足元の技術、体幹、判断力を育てることが大切です。


Q. ヘディング後に頭痛がある場合はどうすればよいですか?

頭痛、めまい、吐き気、集中力低下、ぼーっとする感じがある場合は、脳震盪の可能性があります。その日はプレーに戻らず、安静にして経過を見てください。症状が強い、悪化する、嘔吐を繰り返す、意識がぼんやりする場合は早急に医療機関を受診してください。


Q. ヘディングを完全に禁止すべきですか?

現時点では、すべての選手で全面禁止すべきとまでは言えません。ただし、不要な反復練習を減らし、回数を管理し、正しい技術を身につけることが重要です。特に子どもや脳震盪歴のある選手では慎重な対応が


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