精液検査「異常なし」でも要注意——40歳を超えると精子のDNAにダメージが増える?

「精液検査では異常なしと言われた。それなのに、なかなか妊娠しない」
不妊治療の現場では、決して珍しいことではありません。
一般的な精液検査では、主に「精子の数」「運動率」「形態」などを調べます。しかし、これらが正常範囲であっても、精子のDNAまで正常とは限りません。
近年注目されているのが、精子DNA断片化(Sperm DNA Fragmentation:SDF)です。
特に男性では、年齢が上がるにつれて精子の運動性が低下し、精子DNAの損傷が増える可能性があることが研究で示されています。
「正常な精液=妊娠能力も正常」とは限らない
精子の状態を評価する代表的な検査が「精液検査」です。
精液量、精子濃度、精子の運動率、正常形態率などを測定し、男性側の妊娠する力を評価します。
もちろん非常に重要な検査ですが、精液検査だけですべてが分かるわけではありません。
見た目には正常に動いている精子であっても、内部にあるDNAが損傷している場合があるからです。
このDNA損傷の程度を評価する指標の一つが、
DFI(DNA Fragmentation Index:DNA断片化指数)です。
DFIが高いということは、DNAが損傷している精子の割合が多いことを意味します。
2026年の研究:正常精液の男性534人を調査
2026年に『The Aging Male』に掲載された研究では、通常の精液検査で正常範囲、いわゆるnormozoospermia(正常精液所見)だった男性534人が解析されました。
研究では、男性を
年齢 | 人数 |
30歳未満 | 113人 |
30~39歳 | 328人 |
40歳以上 | 93人 |
の3群に分け、精液所見と精子DNA断片化との関係を調べています。
その結果、男性の年齢が上がるほど、精液量、前進運動率、総運動精子数(TMSC)が低下する傾向が確認されました。(Taylor & Francis Online)
例えば総運動精子数は、
30歳未満では約1億6,460万、
30~39歳では約1億6,220万、
40歳以上では約1億720万
となり、40歳以上で明らかな低下がみられました。(Taylor & Francis Online)
年齢が上がるほど精子DNA断片化も増加
さらに重要なのがDNAの状態です。
研究では、男性の年齢とTotal DFIの間に有意な正の相関が認められました。
つまり、年齢が高くなるほど、精子DNA断片化が増える傾向が示されたということです。
また、40歳以上と40歳未満を比較した解析では、40歳以上の男性でTotal DFIが有意に高いという結果でした(p=0.032)。(Taylor & Francis Online)
ただし、ここは正確に理解する必要があります。
30歳未満、30~39歳、40歳以上という3群全体を比較した解析では、DFIの差は統計学的有意差には達していませんでした(p=0.081)。
そのため、
「40歳になった瞬間に精子DNAが急激に悪化する」
という意味ではありません。
むしろ、男性の加齢に伴って精子DNA損傷が徐々に増える可能性があり、40歳前後からその影響がより目立ってくることがあると考えるのが適切です。
過去の研究でも同様の傾向
今回だけの結果ではありません。
男性の年齢と精子DNA断片化を調べた19研究、合計4万人以上を対象としたシステマティックレビューでは、19研究中17研究で、男性の高年齢とDFI上昇との関連が報告されています。
一方で、研究によって検査方法や対象者が異なるため、「何歳から危険」「DFI何%以上なら妊娠できない」と単純に線引きできるものではありません。(PubMed Central (PMC))
ここがとても重要なポイントです。
通常の精液検査が正常でも、精子DNAの状態まで正常とは限らないのです。
「男性は何歳でも子どもを作れる」は本当?
女性の場合、年齢と妊娠率との関係は広く知られています。
一方、男性については、
「精子は一生作られるから大丈夫」
「男は何歳でも子どもを作れる」
と思われがちです。
確かに、男性は女性の閉経のように、ある年齢を境として生殖能力がなくなるわけではありません。
しかし、「精子を作れること」と「精子の質が若い頃と同じであること」は別問題です。
加齢に伴う精液所見の低下やDNA断片化の増加については、多くの研究で関連が報告されています。(PubMed Central (PMC))
男性年齢は体外受精の成績にも影響する?
男性年齢と妊娠成績の関係については、さらに慎重に考える必要があります。
2024年に『American Journal of Obstetrics and Gynecology』に掲載された研究では、56,113回の凍結胚移植について父親の年齢との関係が調査されました。
単純な集計では、男性25~29歳で47.9%だった生児出生率が、40歳以上では40.3%に低下。
一方、流産率は男性25~29歳の10.2%から、45歳以上では13.5%に上昇していました。(PubMed)
ただし、母体年齢など複数の要因を統計学的に調整すると、男性年齢と生児出生率・流産率との関連は有意ではなくなりました。(PubMed)
つまり、「男性が40歳を超えれば体外受精の成功率が必ず下がる」と断定することはできません。
妊娠は男性側だけで決まるものではなく、女性の年齢、卵子の状態、胚の状態など、多くの要因が関係するためです。
それでも、男性の加齢に伴って精子の運動性やDNAの状態が変化する可能性については、無視できないデータが蓄積しています。
不妊は「女性だけの問題」ではありません
不妊治療というと、どうしても女性側の検査や治療に目が向きやすくなります。
しかし、妊娠には卵子と精子の両方が必要です。
精液検査で異常がなかったからといって、
「男性側には100%問題がない」とは言い切れません。
特に男性の年齢が40代に入っている場合には、精子の「数」や「動き」だけではなく、DNAを含めた精子の質という視点も重要になってきます。
「男性は何歳でも大丈夫」という考え方から、男性にも加齢による生殖機能の変化があるという
認識へ。
妊娠を希望しているにもかかわらずなかなか妊娠に至らない場合には、女性だけではなく、男性も一緒に検査・評価を受けることが大切です。
※本記事は医学研究およびガイドラインをもとにした一般的な医療情報です。DFI検査の必要性や不妊治療の方針は、年齢、精液所見、女性側の状態、治療歴などによって異なります。実際の検査・治療については医療機関へご相談ください。





